製品開発ストーリー

第2回:UFB開発ストーリー【後編】

目に見えないUFBの測定

メカニズム解明の第一歩は、UFBの個数測定であるということはわかっていた。しかし、先に述べた通りUFBを含む水は無色透明なため、目には見えないという厄介な問題があった。それが心情的に受け入れられないという顧客もあったからだ。花田をはじめとする研究チームは透明な水道水を見つめながら、緑色のレーザーポインターを当てて、何時間UFBを発生させれば加工に十分か、水と空気の混合比率はどのくらいが適しているか、それらの仮説を加工テストで何度も、何度も検証しながら開発を進めた。

そのなかで、研究チームメンバーの渡辺は加工テストを進める傍ら、UFB測定の第一人者である、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の高橋教授(現東北大学)や、九州工業大学の平木教授に師事した。そして、数千万円する粒子軌跡解析法による測定機を導入。目に見えないUFBの発生状態を把握するためであった。しかし、測定機を買えばすぐに結果が得られるものではなく、ノウハウの蓄積にはかなりの時間を要した。水道水で1億個/mlのUFBがあれば加工で十分な効果が得られると確信できるのには、測定機購入から実に1年を要していた。

学会での発表とメカニズム解明

UFBの個数が分かるだけでは、何故加工に効果があるのかの説明にならない。次に渡辺は、以前から超精密加工の指導をいただいていた中部大学の鈴木教授に師事した。鈴木教授は研削加工の権威である。そこで指導を受ける中、面白い実験結果を得ることができた。それは、クーラントの基礎特性の把握を行うための実験で、板にUFBを含む液滴を垂らして傾けてみた。すると、どうであろうUFBが含まれると、含んでいないものより滑りやすいのである。言い換えれば、これは表面に付着するエネルギーが小さいということであり、砥石表面の研削屑をより排出する効果が期待できるということでもあった。

鈴木教授の指導のもと、これまでの成果をひとまとめにして学会で発表することになった。内容は、UFB個数の測定結果、クーラントの特性の変化、砥石からワークが受ける力の測定などである。材料メーカーの当社にとって、2019年3月の精密工学会での発表は、当初非常に敷居が高いと感じていたが、発表が終わってみると大変好意的に受け止められていたことに、とても恐縮した。これを機にその後も、8月には砥粒加工学会秋季大会、9月は精密工学会秋季大会でも発表を行い、UFBの研究分野でも更なる信頼度の向上に向け、積極的に取組んでいる。

今後の展望

実は、前編の冒頭に登場した金型メーカーの社長には、UFB発生装置を購入してもらっている。工具寿命が1.5倍以上に伸びたこと、鋳物の切削でツールマークが消えたことなど、今では加工データを提供してもらっている、とても良好な関係にある。

UFB発生装置は、材料メーカーである当社の既存製品とはまったく勝手が違う。加工機にほとんど触れたことのない販売スタッフが、どうやって技術者の日々の課題解決に向けこの商品を説明したらよいかといった工夫や、当社のメイン商材とは異なる販路の開拓にも、日夜苦労を重ねている。一方で、このUFB発生装置は材料・部品メーカーの当社が、日本のモノづくりの復活を目指して商品化した装置であり、この仕事には非常にやりがいと誇りを感じている。